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物語:きっとみつかる

  • DB七国山
  • 2017年5月17日
  • 読了時間: 3分

「里親募集中 ブリーダー放棄 大型犬 7歳メス(腫瘍1つ除去済み 悪性)」


獣医さんの窓ガラスに里親募集の紙が貼ってあった。最初にその張り紙を見た人はこう思った。(・・・悪性の腫瘍がある年取った大型犬。里親決まる前に死んじゃうんじゃない??)


次に来た人は、その犬の写真に目線を止め、文字を読み、ため息をつきこう思った。(優しい顔をした犬。落ち着いているちょうどよい年頃だけど、腫瘍が悪性。今の状態はどうなのかしら。。。)


その次の人は、写真が目に留まり「里親募集」「大型犬」という文字だけを見て獣医の受付に入っていった「あのー、外の張り紙にある里親募集中の犬ですけど、何歳ですか?」年齢や腫瘍のことを聞いてその人は去って行った。 


女の子が張り紙の前で立ち止まった。家に帰って母親に張り紙の犬のことを言った。

「お母さん、新しい犬を飼ってもいいと言っていたでしょ?」

母親は買い物に行くついでに女の子と一緒に獣医さんの前を通って張り紙を見た。

(7歳・・・腫瘍除去!悪性!!!)

「ね、かわいい顔しているでしょ?ぬいぐるみみたいでかわいい!」

母親は考えながら女の子に言った。「そうね、とてもかわいい犬だね。でもね、病気があるんだって。だから、もしかしたらすぐに死んじゃうかもしれないよ」

「病気なの?その病気は治らないの?」

「獣医さんが悪いところはとってくれたみたいだけど、完全に治ったのかはわからないの。」

「でも、治ったかもしれないんでしょう?」女の子は粘ったけれど、買い物に行ったショッピングセンターの中にあるペットショップで子犬を見たら、さっきの犬じゃなくてもいいかな、と思った。

母親は先天性の病気で2歳前に亡くなった愛犬を思い出していた。犬も生き物だから病気になる可能性はみんなある。でも、どうしても気持ちがむかなかった。


その後も何人か張り紙の前で立ち止まっては去って行った。


獣医さんとスタッフの間で、誰かこの子を引き取れないか相談を始めたところに、一本の電話がかかってきた。

「窓の張り紙の大型犬ですが、まだ里親を募集していますか?」という問い合わせだった。

 

獣医師はわかっていることを全て話した。この犬を保護している保護主からも電話をかけ、保護した経緯や手術後の様子、この犬の性格を丁寧に紹介した。全てを聞いた後、その人は言った、

「わかりました。主人も会いたいと言っています。私も一度会ってみたいです。」


お見合いの朝、保護主とその犬は獣医の前で電話の方を待っていた。約束の時間まで後5分。(あのお二人かしら?・・・・・違うか。)(あの方々?・・・。違った。)

「おはようございます」

背後から声をかけられ、振り向くと60代のご夫婦が微笑みながら立っていた。


二人は保護主に挨拶をすると、目線を犬に向けた。

二人と一匹が微笑み合った瞬間、空気が繋がった。


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(この物語は、実際の話を参考に書いたフィクションです。)


 
 
 

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